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Reginella Campagnola~村の娘~

手作り生パスタ教室「Il Sole」の主催者が日々の生活をお伝えします。



イタリア料理を知る その8 :: 2022/07/28(Thu)

リストランテ「Borgo San Jacopo」はフィレンツェに流れるアルノ川沿いにある。ぴしっとアイロンがかけられたしっかりと厚みのあるクロスがかけられたテーブル。その上には小ぶりなキャンドルと花が飾られていて、窓から見る夕暮れのアルノ川はなんとも穏やかで美しい。オーナーはイタリアが誇るフランド「フェラガモ」だ。この日の講師は、この優雅なリストランテのシェフであるベアトリーチェ・セゴーニ。金髪のショートカット、大きなクリスタルのピアスが明るい笑顔を一層華やかにしている。そして、その隣にいるのは学校の卒業生で長年シェフの右腕を務める賢さん。

この日のメニューは、ヤリイカの千切りとさやいんげんのインサラータ モデナのバルサミコ風味のイチゴ添え、あさりのリゾットのトマト包み、魚介のグロデット、ホワイトチョコレートとバニラのカップケーキ。 もともとファッション業界にいたシェフの料理は、プレセンテーションがとても洗練されていて今までの講師の料理とはその見せ方が明らかに違う。その見せ方を工夫する為の手のかけ方が違う。あさりのリゾットのトマト包みは、トマトを湯向きして薄くスライスしたものをプリン型の側面に貼り付け、中にあさりのリソットを詰めてお皿の上にそっと置いてから静かに抜く。お皿にぴたぴたとよそられたリゾットではなく、立体的な見せ方だ。薄く重ねられた赤いトマトの層にナイフを入れると、中からパセリで色付けされた柔らかなリゾットがとろっと出てくるのには驚きがある。

魚介のプロデットは、シェフの故郷であるマルケ州の、その昔は野生のサフランで色付けされていたという魚のスープ。食欲をそそるサフランの色と香り、決して煮崩れてはいない魚と立派な海老が置かれ、もともとは漁師たちが網にかかった小魚を使って作った料理とは思えない豪華さだ。
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全ての調理が終わった後にシェフに質問する機会を得た。美しい料理に興奮した私は「料理のインスピレーションはどこから得るのですか。」と勢い込んで質問した。「まずはイタリア料理の古いレシピから。大切にしているのは素材との対話。ただし、現代人の好みに合わせて、見た目も楽しめるような工夫は必要と考えています。」と、その後に「見た目は大切だけれども、一部のレストラン(当時スペインの高級レストラン「エル・ブリ」)がやっているような、素材を科学的に泡状にしたり、球状にしたりすることは、技術的には興味があってやってみたたけれど、イタリア料理は噛んで味わう料理なので必要のないことだと判断しました。イタリア料理は時間をかけて、火を使って作るものです。」とおっしゃってにこっと笑った。この返答には意外と言っては失礼だけれども、極めて正当、王道の答えが返ってきて、自分が華やかな料理に抱いていたある種の偏見を正されるような気がしてはっとした。例えば絵画からなどという答えがあるような気がしていたのだ。本質が違う。賢さんに「フィレンツェに来たら、お店に来てください。本当のリストランテの料理をお見せします。」と言われ、数週間後に日本から来た友人とフィレンツェで落ち合った時にお店に伺った。

全てのお料理を少量ずつ食べられるデグスタッツィオーネとそれに合わせたワイン。店内のしつらえはもちろん、デグスタッツィオーネでさえも完璧に盛り付けられた美しい皿の数々、サービスの人達のスマートな物腰も含めてリストランテの世界はこういうものということが少しわかったように気がした。料理が一番重要だが、全てが揃った劇場で人は味わい遊ぶ。帰り際にはベアトリーチェと賢さんが出て来てくれてお話しをしたが、気が付くと大きな体の賢さんの肩にベアトリーチェが顎を乗せてにこにこしていて、何かいつも意表を突かれるというか笑ってしまった。
 
ベアトリーチェは現在、他国で活躍中と聞く。賢さんは数年後に帰国し、2015年に東京の錦糸町で「サン・ヤコピーノ」という自分のお店を始めた。小さなヤコポという意味の可愛らしいお店で、賢さんが身に沁みついたトスカーナの料理を出している。 
(2010.3.10)


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